TPAC 2025におけるAI
Web & AI at W3C
TPAC 2025 の週の中盤に、W3Cメンバーおよびすべての参加者(対面およびオンライン)を対象として開催されたアドバイザリー・コミッティおよびコミュニティセッションにおいて、私(Roy Ruoxi Ran)は Web & AI at W3C(7分間の動画あり)の概要を紹介し、W3Cがどのように関与しているか、仕様策定、コミュニティの取り組み、今後の活動について説明しました。発表では、なぜAIがWebにとって重要であるのか、どのW3CグループがAIの発展に貢献しているのか、W3Cのホリゾンタル(倫理・セキュリティ・プライバシー・アクセシビリティ)がAIの影響をどのように形作っているのか、さらに AIエージェントとWebブラウザに関するW3Cワークショップ(準備中)についても取り上げました。
また、新たに設立された Web & AI Interest Group についても紹介しました。このグループは、W3Cメンバーによるレビューの最終段階にあり、その後正式に立ち上げられたチャーター済みのグループです。本グループは、新たに登場するAI関連技術がWebにどのような影響を与え、どのように交差していくのかを探究・議論するためのフォーラムを提供し、Webユーザーの利益のためにコミュニティがどのように協力してこれらの進化を形作っていけるかを検討することを目的としています。
Roy Ruoxi Ran による「W3CにおけるWebとAI」に関する発表,2025年11月12日
字幕を閲覧するW3CにおけるWebとAI,2025年11月12日AIがW3Cのワーキンググループおよびインタレストグループ、ならびに関連するコミュニティグループの議題と交差する領域
複数のW3Cのチャーター済みワーキンググループおよびコミュニティ主導のグループが、Web標準の開発を調整するために世界中のWebコミュニティが集まる年次イベント TPAC 2025 において、グループミーティングの議題として人工知能(AI)を取り上げました。
Web Machine Learning Working Group
本ワーキンググループは Web Neural Network API(WebNN)に焦点を当てました。議論では、小規模言語モデル(SLM)向けにWebNNを最適化することが取り上げられ、パフォーマンス向上のために動的形状やテンソルバインディングといった新機能の必要性が検討されました。また、コア演算セットについても議論され、複雑な演算子をAPIに組み込むべきか、それとも融合やサブグラフ構成によって処理すべきかが検討されました。さらに、会議の大きな部分はデバイス選択(CPU、GPU、NPU)に割かれ、高性能なデバイス選択をアプリケーションに委ねることと、特にデバイスフィンガープリンティングに関するユーザーのプライバシーおよびセキュリティ懸念とのバランスを取る必要性について議論されました。
Web Machine Learning CG
この関連コミュニティグループは、Web Machine Learning Working Groupの範囲を超える領域を扱い、将来的に標準化のためにワーキンググループへ引き継がれる可能性のある成果物を生み出します。
本グループは、エージェント指向のWebに向けた高レベルAI APIおよび関連技術のインキュベーションに焦点を当てました。主要なトピックの一つはWebMCP(Web Model Context Protocol)であり、これはWebサイトが自身のJavaScript機能を「ツール」として公開し、AIエージェント(通常はブラウザに組み込まれたもの)がクライアント側で安全に呼び出せるようにする仕組みです。これにより、脆弱なDOM解析やスクリーンショット解釈を回避することが可能となります。この文脈では、機密性の高い操作に対する同意や権限管理の方法についても検討されました。また、ブラウザが提供する LLM とWebページが相互作用するためのPrompt APIの設計についても議論され、異なるモデル間での相互運用性と柔軟性を高めるために「オープンループ型」のツール実行パターンを採用する方針が検討されました。
Web Payment Security Interest Group
本グループでは、エージェント型決済(Agentic Payments)という新たな動向について議論が行われました。AIによって生成されるトラフィックの増加が不正検知を複雑化させており、監査可能な同意ログといった新たな規制的コントロールの必要性が指摘されました。エージェント主導の商取引を支えるプロトコルとして、AP2およびACPが紹介されました。AP2は検証可能なデジタル資格情報(Mandates)を用いてユーザーの意思を構造化し、ACPは共有かつスコープ付きの支払いトークンを使用します。議論では、エージェントの行動を予測可能にし、スクリーンスクレイピングへの依存を防ぐために、Webにおける明確で一貫したセマンティクスの採用が必要であることが強調されました。また、エージェントが関与する取引に異議が生じた際に責任の所在を判断するためにも、信頼可能で検証可能なエージェントアイデンティティの確立が大きな課題として挙げられました。
Autonomous Agents on the Web CG
本グループでは、WebAgents CGの概要として、その歴史、目的、スコープについて説明が行われました。また、ハイパーメディア・マルチエージェントシステムについて議論され、Web上のエージェントに関する初期のビジョンや、Webベースのエージェントおよびマルチエージェントシステム(MAS)の簡単な歴史が紹介されました。さらに、現在の活動として、WebベースのMASにおけるアーキテクチャパターンの定義に焦点が当てられました。
AI Agent Protocol CG
本ミーティングでは、AI Agent Protocolの現在のアーキテクチャを中心に、その構造のレビューが行われました。また、コミュニティグループの進行中の取り組みについても議論され、今後の開発計画の詳細が共有されました。さらに、提案されているエージェント向け決済プロトコルについても議論が行われました。
グループミーティング:AI Agent Protocol CG
Documentation CG
このコミュニティグループの議題の一つは、従来のドキュメントが対象としてきたWeb開発者層に対するAIの影響と、特にAIコーディングエージェントやチャットボットとの対話を通じた情報取得といった、開発者の情報消費のトレンドの変化でした。本グループでは、AIコーディングエージェントをWebドキュメントの対象としてどのように統合すべきかについて議論が行われ、特にこれらのエージェントが、開発者が新しいWeb技術を発見・採用する方法において重要な構成要素となる可能性を踏まえた検討がなされました。
AI Knowledge Representation (AI KR) CG
本グループでは、説明可能で信頼できるAIを実現するための、明示的かつ共有可能な知識表現標準の開発について議論が行われました。今後の計画としては、提案された標準の精緻化、AI KR語彙の拡張、そして最終的には正式なワーキンググループへの移行が挙げられています。最終的な目標は、産業界での採用を見据えたW3Cの知識表現標準を確立し、透明性と責任あるAIシステムを支援することです。
Chinese Web Interest Group
本グループの議題の一つは、AIエージェントによって駆動される生成UI(Generative UI)の課題を解決するための、新たなWeb AI Agentサブセット標準でした。中心的なトレンドは、AIがコンテンツ生成から、オンデマンドで動的なUIやアプリケーションを生成する方向へと移行している点にあります。この提案では、「Raw Web」や独自DSLに依存するアプローチに対して否定的な立場を取り、複雑なHTML/CSS/JSの代わりに、LLMが生成可能な軽量でクロスプラットフォームな標準サブセットを提案しています。結論として、このオープンでセキュアな標準を活用するWeb AIレンダリングコンテナを構築することで、より高度でクロスプラットフォームなユーザー体験を提供することが推奨されました。
AIが議論・共有されている場
TPACにおけるブレイクアウトセッションは、参加者主導で行われるミーティングです。その中でも多くのセッションがAIをテーマとしていました。
Semantics for the Agentic Web
本セッションでは、AIエージェントがユーザーに代わってタスクを実行する「エージェント指向Web」における課題について議論が行われました。現在、これらのエージェントは視覚ラベルの解析といった脆弱な手法に依存しているため、Webサイトの変更により高い失敗率を招くことがあります。議論の中心となったのは、ARIA(人間のアクセシビリティ向けに設計された仕組み)が機械エージェントにも適しているのか、それとも信頼性と安全性を向上させるために、機械向けの新たなセマンティックレイヤー(HTMLへのデータ埋め込みの既存仕組みの再利用を含む)が必要なのかという点でした。また、破壊的操作のフラグ付けなど、エージェント特有の高レベルなセマンティクス要件についても検討されました。
Agentic Browsing and the Web's Security Model
本セッションでは、非決定的に振る舞い、ユーザーとブラウザの間で第三者として動作するAIエージェントがもたらす新たなセキュリティ課題に焦点が当てられました。主な懸念としては、エージェントが価格制限などの条件内で動作していても、マーケティングなどの操作的コンテンツに影響を受けやすい点が挙げられました。参加者は、エージェントとユーザーエージェント(ブラウザ)を分離し、ブラウザ側がエージェントに対して閲覧可能なコンテンツや実行可能な操作を制御するポリシーを適用する仕組みを提案しました。議論では、ユーザーの利益を保護するために、エージェントの文脈や権限を明確にし、ガードレールを実装する新たなWeb標準の必要性が強調されました。
ブレイクアウトセッション:エージェント型ブラウジングとWebのセキュリティモデル
Future of the Open Web
本セッションでは、生成AIがオープンWebの将来に与える影響について議論が行われ、AIクローラーや認証に関するIETFでの議論を踏まえた内容となりました。主な懸念として、AIによるスクレイピングの搾取的な性質が挙げられ、これによりパブリッシャーがコンテンツを閉鎖し、情報のオープンな利用可能性が制限される可能性が指摘されました。参加者は「オープンWeb」の定義について議論し、広告以外の多様なビジネスモデル(WikipediaやOpenStreetMapなど)を支援する必要性や、コンテンツが機械によってどのように利用されるかについてパブリッシャーが選択できるべきであると強調しました。最終的には、オープンWebの中核的価値を特定し、それを維持する必要があるとの認識で一致し、エージェントのアイデンティティや、クロールされたコンテンツの利用に関する技術的・ポリシーベースの新たな標準の検討が示唆されました。
Design and Implementation of the Agent Network Protocol (ANP)
本セッションでは、Agent Network Protocol(ANP)が紹介されました。ANPは、サイロ化を解消し、AIエージェント同士の協調を実現するための効率的・安全・オープンなネットワークを構築することを目的としたオープンソースの通信プロトコルです。また、ANPのコア設計原則や、GoogleのA2AやAnthropicのMCPといった他の新興プロトコルとの違いについても説明が行われました。
AI Agents and The Web
本セッションでは、W3CにおけるAIエージェントとWebの交差領域について検討が行われ、これらのAI駆動型アプリケーションを支えるためにWebブラウザがどのように進化する必要があるかに焦点が当てられました。議論では、Web Machine Learning(WebML)ワーキンググループおよびコミュニティグループで進められている取り組みなどの現状が共有され、ブラウザが大規模言語モデルやエージェントのための知的な実行・相互作用プラットフォームへと進化する可能性についても検討されました。主な目的は、W3C内の各グループ間におけるギャップや機会を特定し、コミュニティからの意見を収集するとともに、AIエージェントとWebに関する今後のW3Cワークショップのスコープ策定に資することでした。
Stronger Together: Super-charging Agentic AI with Accessibility Destinations
本セッションでは、Accessibility Destinationsを用いてエージェント指向AIを強化する方法について議論が行われました。これは「アクセシビリティに関する声明」や「ログイン」などの重要なページをエージェントが予測可能に発見できるようにする提案です。中心的なアイデアは、サイトマップなど既存の構造に新たなメタデータや属性を追加することで、重要なサイト内遷移先をエージェントとユーザーの双方にとって容易に発見可能にすることです。参加者はこの方向性の有用性に同意し、特にログインのような一般的な操作については、より良いユーザー体験のためにブラウザUIへ統合する可能性も議論されました。今後は「提案される遷移先」のリスト定義や、保守性およびスケーラビリティに関する課題への対応が検討されます。
AI Driven Web Standards Specification
本ブレイクアウトセッションでは、AIエージェントを活用して次世代のWeb標準仕様を策定・公開する可能性について検討が行われ、AI Knowledge Representationコミュニティグループとの連携も議論されました。主な目的は、従来の人間主導による標準策定プロセスを見直し、その上でAIツールを活用して仕様の作成および公開ワークフローを自動化・効率化することでした。
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