W3C (World Wide Web Consortium)はWeb技術の標準化と推進を目的とした会員制の国際的な産学官共同コンソーシアムです。 アメリカ合衆国マサチューセッツ工科大学計算機科学人工知能研究所(MIT CSAIL)、欧州情報処理数学研究コンソーシアム(ERCIM)、 慶應義塾大学、北京航空航天大学(Beihang University)がホスト機関となり28年にわたり運営してきましたが、 2023年1月に公益非営利組織として再始動しました。 新組織では、会員主導のアプローチとグローバル組織との既存の協力体制からなる両輪を基軸として、 既存地域分布にとどまらない全世界にわたる会員によるグローバルな運営を目指しています。 すでに400近い組織がコンソーシアムの会員として参加しており、日本からは30以上の組織が参加しています。 W3C会員、W3Cチームスタッフ、加えて国際社会からの貢献を基盤とし、真のグローバル組織としてオープンなWebの 標準技術の開発を継続していくことで、Webを推進していくという社会からの寄託と使命を守り続けます。 また、W3C会員や一般向けに、開発者及び利用者のためのWorld Wide Webに関する豊富な情報の提供・発信、 そして新技術を活用したプロトタイプやサンプルアプリケーションの提供を含む情報発信を一層強力に推進していきます。
1994年10月、Webの発明者であるTim Berners-LeeはWeb発祥の地である欧州共同原子核研究機関(CERN; Conseil Européen pour la Recherche Nucléaire)の協力と、 アメリカ合衆国国防総省高等研究計画局(DARPA; Defense Advanced Research Projects Agency)、欧州委員会(EC; European Commission)の援助を得て、 マサチューセッツ工科大学(MIT; Massachusetts Institute of Technology)コンピュータ科学・人工知能研究所(CSAIL; Computer Science & Artificial Intelligence Laboratory)の前身である計算機科学研究所(MIT/LCS; Laboratory for Computer Science)にW3Cを設立しました。 当時、Webアーキテクチャは分裂する危険性を孕んでおり、競争関係にある関係者同士による議論や研究開発を促すことによるWebの発展と、 相互運用性を確保する共通仕様の開発によって、ひとつのWebとしての可能性を最大限に引きだす事が求められました。 翌年の1995年3月には欧州情報処理数学研究コンソーシアム(ERCIM; European Research Consortium for Informatics and Mathematics) の設立機関でもあるフランス国立情報処理自動化研究所(INRIA; Institut national de recherche en sciences et technologies du numérique)が、 1996年9月には慶應義塾大学がそれぞれW3Cを運営するホストとして参加しました。
2003年1月にはINRIAからERCIMへ、同年7月にはMITにおけるLCSと人工知能研究所の統合に伴い、 MIT/LCSからMIT CSAILへとそれぞれ運営ホストが引き継がれています。 2004年10月には設立10周年を迎え、同年12月にはアメリカ合衆国ボストンにて設立10周年記念祝賀式典W3C10が、 2005年6月にはフランスSophia-AntipolisにてW3C10 Europeが、2006年11月には東京においてW3C10 Asiaがそれぞれ挙行されました。 また記念式典W3C20が、2014年にはアメリカ・サンタクララで、2015年にはフランス・パリで、2016年には日本・千葉で開催されました。 2023年1月にMIT CSAIL、ERCIM、慶應義塾大学、北京航空航天大学の4ホスト機関による運営から、 米国501(c)(3)に基づく非営利団体として再始動しました。旧ホスト機関は新たに国際パートナーとして関わっていきます。
W3Cは、技術仕様や指針を勧告(Recommendation)として策定、標準化する事を主な活動としています。 業界標準として幅広く普及するXMLやXML Schema、Webページ記述言語HTML、CSSスタイルシート、 2次元ベクトル画像形式SVG、同期マルチメディア記述言語SMILなど、Webの核となる多くの技術はW3Cによって策定、標準化されました。 W3Cが標準化する技術は産業界で絶大な信頼性を持ち、国際テレビ芸術科学アカデミー(NATAS; National Academy of Television Arts and Sciences)からも2016年、2019年、2022年の3回、 テクノロジー&エンジニアリング・エミー賞を受賞しています。
W3Cとリエゾン関係にある組織は2023年現在107です。W3CはICANN、GIPO、IGF、I* (I-star)にも参加しており、 グローバルなWebとインターネットの標準化の連携関係により、技術と政策の両面において重要な位置を占める互換性のある技術群を形成しています。 またW3Cは、ISOのAPO/PASサブミッターとしても承認されており、世界の組織との信頼関係を保ちながら日々の議論を進めています。
W3Cは下記の命題を掲げユニバーサルアクセスの実現に努めています。
-One Web-
-Leading the Web to its Full Potential-
~Webは、ハードウェア、ソフトウェア、ネットワーク、言語、文化、場所等の違いや、身体的、精神的能力にかかわらず、すべての人 に提供されるべきものである~
W3Cは、様々な言語でのWebアクセスを実現するWebの国際化(I18N; Internationalization)、 ハードウェアに依存しないWebアクセスを実現するDevice Independence (DI)、音声を含む様々な入出力機器に対応、 更には障害を持つ人を含むすべての人が使いやすいWebを実現するWeb Accessibility Initiative (WAI)の基盤技術や WebGPUやWebTransportといったWeb Servicesの基盤技術といった先端技術仕様の策定だけでなく、 テレビ、車、電子書籍、メディアなど各産業と連携したWeb技術標準の開発、 Decentralized Identifiers (DIDs)、Verifiable Credentials (VC)やWeb of Things (WoT)といったWeb関連技術を活用したデータ標準の開発、 そしてWeb上での個人情報の取り扱いや健全な広告の技術仕様策定にも取り組んでいます。 これらのW3Cの議論は全てロイヤリティフリーの特許方針(Patent-free)の元に議論・開発が行われています。
W3Cは、その運営を担うW3C Teamスタッフと、組織単位での参加となるW3C会員から構成されます。
W3Cスタッフは、W3Cで行われている技術的な作業を主導、調整する多くの専門家と、運営に携わるロジスティクスやシステム、 会員の強いロイヤリティを構築するスタッフで構成されます。世界中で約35名がW3Cスタッフとして勤務しており、 多くの技術スタッフが所属しているという点で、W3Cは標準化団体の中でも稀な存在です。
W3C会員はW3Cに参加している組織を指し、Webに関する技術開発や普及活動などを行っています。 W3C会員には、コンピュータ産業やインターネット産業、電気通信事業者、電気メーカ、自動車メーカやサプライヤ、 セキュリティ業界、放送事業者、出版事業者、報道機関など、情報産業のみならず各産業をリードする主要な企業が多数含まれるだけでなく、 世界有数の研究機関や大学、先進各国の政府関係機関、NPO(非営利組織)やユーザ団体など、多様な組織が世界各国から参加しています。
W3C会員には次のような特典があります。
さらにW3CはWebに関する技術開発とW3Cへの国際的な参画を促進する為に、多くの国や地域にW3Cチャプターを開設しています。 これらのW3Cチャプターは各国各地域における連絡先としての機能を果たすだけでなく、それぞれの国や地域のWebコミュニティと協調し、 現地語によるW3C技術の普及活動を積極的に展開しています。
W3Cチャプターは アメリカ(ニューヨーク都市圏)、 アルゼンチン&ウルグアイ、 イタリア、 インド、 オーストラリア(首都特別地域、東部、西部の3ヶ所)、 韓国、 ギリシャ、 コスタリカ、 東南アジア、 スペイン&米州スペイン語圏、 中国(粤港澳大湾区、南京金融技術の2ヶ所)、 ドイツ&オーストリア、 ハンガリー、 北欧圏、 ブラジル(サンパウロ)、 ベネルクス(ベルギー、オランダ、ルクセンブルグ)、 モロッコ、 湾岸協力会議圏 の計21の国と地域に開設されています。
W3Cは長年にわたり進化するWebの技術やその活用に対応するために漸進的に変化してきました。 2023年1月より、米国501(c)(3)に基づく非営利団体として再始動し、 これによりW3Cの細則や指定された財務諸表は公開され、また独立した外部監査人による監査を毎年受けることになり、 さらなる透明性と説明責任の達成とともに、急速に進む変化への対応力を強化することが期待されています。 W3C会員が過半数を占める理事会により策定される運営と戦略的方向性の元、ガバナンスを全面に打ち出し、より明確な報告、 継続的かつより高い透明性を持つグローバル協力を目指します。
さらに、会員主導のコンソーシアムとして、W3Cでは会員が運営に参画しています。 理事会への選出以外にも、W3Cの運営顧問の役割を果たすAdvisory Board (AB)と呼ばれる運営諮問委員会と、 Web技術全体に関わる技術仕様に関与する技術顧問の役割を果たすTechnical Architecture Group (TAG)と呼ばれる技術諮問委員会が設置されています。 これらの委員は、原則的にABについては11名、TAGについては9名がそれぞれW3C会員による選挙により選出され、ベンダ中立な参加が求められます。 任期はどちらも2年間です。また、会員各組織代表であるAdvisory Committee Representative (AC Rep) が参加するW3C会員各組織代表総会(AC Meeting)は年に2回行われ、W3C全体の運営について議論されます。 この内の1回は、各会員組織の技術者や専門家らが参加し、W3C技術全般について議論するW3C年次技術者総会(TPAC; Technical Plenary and Advisory Committee)として開催されます。
W3Cの運営、仕様策定の手続きなどはW3C Process Documentに規定されています。
Web技術についての具体的な技術仕様や指針の策定はグループ単位で行われます。これをワーキンググループ(WG; Working Group)と呼び、 W3C会員からの参加者とW3C技術スタッフによって主に構成されます。 通例、WG議長はW3C会員参加者から選ばれ、W3C技術スタッフは担当者(Team Contact)として議長を補佐します。 また必要な場合は、会員、スタッフ以外の専門家を招聘専門家(Invited Expert)として迎える事もあります。 これらの活動の領域、対象とする仕様書やグループ内決定の方法はWG設置趣意書(Charter)に規定されており、W3C会員による投票を経て承認を受けています。 WG以外には、策定作業を行わず議論を目的としたインタレストグループ(IG; Interest Group)や、ビジネス領域ごとのユースケースを抽出する議論を目的としたビジネスグループ(BG; Business Group)、 そして部会間の調整を行うコミュニティーグループ(CG; Community Group)も設置されます。 IGとBGについては、WGと同様に活動については設立趣意書で明確に規定され、かつ各グループにはW3C技術スタッフから担当者が配置され、作業を補佐します。
一般にWGは週に1、2回の電話会議と半年に一度実際に顔を合わせる対面会議を通じ仕様策定作業を進めます。 日常的な議論や情報交換にはメーリングリストやGitHubが、情報の蓄積や閲覧にはWebが用いられます。 策定された仕様もWeb上に公開されます。
グループの一覧は以下になります。また前述のとおり、下記以外にTAGとABの2グループが活動しています。
Accessibility Education and Outreach Working Group (EOWG) / Accessibility Guidelines Working Group / Accessible Platform Architectures Working Group / Accessible Rich Internet Applications Working Group / Audio Working Group / Browser Testing and Tools Working Group / Cascading Style Sheets (CSS) Working Group / Dataset Exchange Working Group / Decentralized Identifier Working Group / Devices and Sensors Working Group / Distributed Tracing Working Group / Federated Identity Working Group / GPU for the Web Working Group / HTML Working Group / Immersive Web Working Group / Internationalization Working Group / JSON-LD Working Group / Math Working Group / Media Working Group / MiniApps Working Group / Pointer Events Working Group / Portable Network Graphics (PNG) Working Group / Publishing Maintenance Working Group / RDF Dataset Canonicalization and Hash Working Group / RDF-star Working Group / Second Screen Working Group / Service Workers Working Group / Spatial Data on the Web Working Group / SVG Working Group / Timed Text Working Group / Verifiable Credentials Working Group / Web Application Security Working Group / Web Applications Working Group / Web Authentication Working Group / Web Editing Working Group / Web Fonts Working Group / Web Machine Learning Working Group / Web of Things Working Group / Web Payments Working Group / Web Performance Working Group / Web Real-Time Communications Working Group / WebAssembly Working Group / WebTransport Working Group
Chinese Web Interest Group / Internationalization Interest Group / Media and Entertainment Interest Group / Patents and Standards Interest Group / Privacy Interest Group / WAI Interest Group / Web & Networks Interest Group / Web of Things Interest Group / Web Payment Security Interest Group
Improving Web Advertising Business Group / Publishing Business Group
W3C技術文書には、勧告仕様、Group Note (とW3C Statement)、Registry、会員提案(Member Submission)のトラックが規定されています。 Group Noteはグループによってまとめられた技術的なアイデアで、勧告の運用に関するものなどがあります。 そのうち、重要とされた文書については、W3C会員によるレビューを経て承認された文書としてW3C Statementとして公開されることがあります。 Registryは勧告仕様に紐づいてリストされた項目をまとめた文書になります。 会員提案はW3C会員によって提出された技術仕様や技術提案で、新たな技術仕様策定の叩き台になる場合もあります。 なお会員提案は一定の条件を満たす必要があります。
勧告仕様のトラックについて、すべてのWeb利用者に対する責任の所在を明確にする為にどのように作業が開始、実施され、 レビューされて完了されるかをW3Cプロセスドキュメントにおいて規定しており、以下の4つの段階に分けて技術仕様を公開し策定しています。 なお、WGはW3C会員に加えて、リエゾン関係にあるさまざまな標準化団体や、一般の開発者コミュニティに対しても直接レビューを依頼し、 会員以外からの意見に対しても会員からの意見同様に対応しています。
公開草案初版(FPWD; First Public Working Draft)以降、最終草案までの間に公開される更新版です。 他の段階から差し戻されてくる場合もあります。なお、草案となった全ての仕様が勧告になるとは限りません。
仕様が要求を満たしているか、広く一般に実装を呼びかけ、実装および相互運用試験を行います。 要件を満たせば勧告案に進み、そうでなければ、草案に差し戻される場合もあります。
W3C会員全体によるレビューが実施されます。レビュー期間は最低でも4週間設定されます。 会員からの合意が得られない場合は、勧告候補または草案に差し戻されます。
W3C会員によるレビューを経た後、勧告として公開されます。
原則として一度勧告になった仕様の変更は行われませんが、 間違いなどを修正する為に勧告修正案(Candidate Amendments)が公開される事があります。 この場合もレビューと合意に基づく手続きを経て、更新版となる勧告が公開される事があります。 なお新たに機能を追加したり既存の機能を修正したり更新したりする場合は、新しい仕様として策定し直す事になります。
W3Cの仕様策定に関する議論は基本的に公開メーリングリストやGitHubレポジトリで行われており、 以下のような技術者の方々により直接議論を交わし、必要な仕様改善を行っております。
W3Cには公開メーリングリストがあり、会員ご加入手続きが完了する以前に(=例えば今すぐ)ご参加いただくことができます。登録は各メーリングリスト・アーカイブページから「subscribe to this list」を辿ってお進め下さい。 また、仕様案やその議論についてはGitHubのW3C organization をご覧下さい。
慶應義塾大学と一般財団法人Web Consortium Asia Pacific (WCAP)は、 日本を中心とする地域を担当するW3C運営パートナーとして活動しています。 最初は1996年9月に神奈川県藤沢市の慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)内併設の慶應義塾大学SFC研究所に設置されました。 2023年12月現在、村井純(慶應義塾大学教授、W3C Board of Director)をはじめとする計6名がW3Cスタッフとして活動しています。
スタッフによる講演会の開催や講演者の派遣、或いは様々なイベントへの参加を通して広く一般に向けたW3C技術の普及、 広報活動を展開しています。
日本と韓国からは、W3C会員の約1割近くに相当する40を超える組織が参加しています。 日本の最先端技術を国際標準化するためにも、皆様の積極的なご参加をお待ちしております。
1.年会費はいくらですか。
会費額の決定につきましては、年間の売上額(年商)を基準に定められています。
詳細はHow to Join W3Cをご覧下さい。
2.申込から加盟手続き終了までにかかる所用期間はどれくらいですか。
一週間程度とお考え下さい。
3.W3Cに入会するメリットとは?