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この資料は、CSS、SVGおよびXSL-FOなどの技術で実現が求められる一般的な日本 語組版の要件を記述したものである。この資料は、主としてJIS X 4051(日本語 組版規則)に基づいている。しかし、一部、JIS X 4051に記載されていない事項 にも言及している。現状のこの資料は、素案段階にある。
この資料の状態については、英語版を参照します。
書記システムは,言語,文字と並び,文化を構成する重要な要素である.それぞれの文化集団には独自の言語,文字,書記システムがある.個々の書記システムをサイバースペースに移転することは,文化的資産の継承という意味で,情報通信技術にとって非常に重要な責務といえよう.
この責務を実現するための基礎的な作業として,このドキュメントでは,日本語という書記システムにおける組版上の問題点をまとめた.具体的な解決策を提示することではなく要望事項の説明をすることにした.それは,実装レベルの問題を考える前提条件をまず明確にすることが重要であると考えたからある.
このドキュメントの作成は,W3C Japanese Layout Task Forceが行った.このタスクフォースは,次のようなメンバーで構成され,ユーザーコミュニティーからの要望と専門家による解決策を調和させるために様々な議論を行ってきた.
日本語組版の専門家(“JIS X 4051:日本語文書の組版方法”のエディターたち)
日本における国際化,標準化活動の専門家(マイクロソフト,アンテナハウス,ジャストシステムの社員)
W3CのXSL,CSS,SVG,国際化コアなどのワーキンググループメンバー
また,このタスクフォースは,バイリンガルによるものとしても,画期的なものといえよう.ディスカッションは,日本語の組版を問題とすることから,主として日本語で行った.しかし,議事録とメーリングリストは英語のものを用意した.W3CのXSL,CSS,SVG,国際化コアなどのワーキンググループメンバーとの英語及び日本語によるフェイス・ツウ・フェイスの会議を開催した.
ドキュメントも日本語で準備し,これを英訳し,2つのドキュメントを公開することにした.用語についても,特殊な用語は極力避けるように努めた.英語の用語との対応についても,用語の定義内容を検討し,概念に対応できない部分を持つ場合は,日本語の用語はローマ字で表現し,今後の課題として残した.さらに,日本語組版を見慣れていない読者のために,要望事項の説明をわかりやすい英語と図表で行うように努力した.
日本語組版は,欧文組版と異なる事項がある.主に次の点で異なる.
日本語組版には,横組だけでなく,縦組がある.
日本語組版で使用する漢字と仮名の字幅は,原則として全角のモノスペースであり,これを原則としてベタ組にする.
このドキュメントでは,このことを前提にして,主に日本語組版の特徴を次の方針で解説する.
日本語組版のあらゆる事項を対象とするのではなく,欧文組版と異なる事項を主に取り上げた.
日本語組版の表現された結果又は表現されるべき結果だけを問題とする.あくまで日本語組版として要求される事項を取り上げ,具体的にどのように処理するかは別の次元の問題と考えるからである.
日本語組版の日本工業規格(JIS)に“JIS X 4051(日本語文書の組版方法)”がある.これとの参照関係をできるだけ示すことを心掛けた.また,JIS X 4051に記述していない事項を除き,基本的な事項にできるだけ限定した.したがって,詳細な処理内容はJIS X 4051にゆずり,参照だけで示した箇所がある.日本語組版に本格的に対応するためにはJIS X 4051を参照する必要があるが,それ以前の基本的な理解を深めることがまずは重要と考えたからである.JIS X 4051で規定されている内容だけではなく,それ以外で重要と思われる事項については解説する.
したがって,このドキュメントとJIS X 4051との関係でいえば,JIS X 4051の要点の解説あるいは要約,補足説明,それに関わる周辺情報の追加,JIS X 4051で規定していない事項の解説ということになる.したがって,基本的な事項を理解するためであれば,このドキュメントで十分であるが,詳細な内容を知るためにはJIS X 4051を参照する必要がある.
ある組版処理がどのような局面で使用されるかをできるだけ示すように心掛けた.
日本語組版に日常的に接していない読者のために,説明している事項の使用頻度について簡単に解説した.これは実際に調査した結果ではなく,執筆者の読書経験による判断である.これは日常的に日本語組版に接している読者にはある程度判断できることであるが,そうでない読者のために,ある程度の使用頻度情報を伝えるためである.したがって,組版処理事項の重要さをある程度判断するができるようにすることを主な目的とするので,情報の正確性を求めないでほしい.
例えば,“割注の使用頻度は多くないが,その該当用語が出てきた箇所に直接補足説明できることから,古典や翻訳書において人物・用語等の簡単な紹介に重要な役割を果たしている”のように説明し.これに対し,“ルビは,最近では新聞でも採用しており,多くのドキュメントで利用されている.”のように示すことにする.
日本語組版に接していない読者を考慮し,できるだけ図解して示すようにした.また,例示も多くするように心掛けた.
組版処理と読みやすい組版設計の関係は別問題である.しかし,両者は不可分の関係があり,解説でも両者を同時に説明する事項もでてくる.しかし,できるだけ両者を区別して記述することを心掛けた.具体的な方法としては,読みやすい組版設計の解説は,できるだけ注記で述べるようにした.
このドキュメントの解説では,組版処理の対象を主に書籍とする.筆者の経験がその点に最も深いこともあるが,日本語組版処理において質の面から書籍の組版が重要と考えるからである.量が多いというだけでなく,質の面から見ると,書籍組版は多くの問題点をもっている.書籍組版は,その処理内容が多様であり,これらについて最も古くから多くの人により問題点が考えられ,かつ指摘されてきた経緯がある.処理そのものについては,書籍の組版処理はむつかしく,また要求のレベルが高かったという点もある.また,書籍で考えられてきた事項の多くが,その他のドキュメントでも応用できる点が多いといえよう.
しかし,使用頻度という点でいえば,雑誌,マニュアル,Web上のドキュメント等の重要性は,書籍と変わらない.また,これらのドキュメントの組版処理では,書籍とは異なる事項も含んでいる.これらにおける問題点は,次の課題としたい.
このドキュメントは,次の3つの部分で構成されている.
1 日本語組版の基本
2 行の組版処理
3 版面の構成方法
第1章では,日本語組版で使用される文字の特徴,縦組と横組の相違点,基本版面の設計方法及びその適用方法などについて解説した.
第2章では,漢字,仮名,約物だけでなく文字に添えて行間に配置されるルビ処理や欧文を含む行の構成方法及び行内での文字配置方法を解説した.
第3章では,見出し,注,図版,表などの構成方法及び配置方法を解説した.
なお,日本語組版は,原則として全角のモノスペースの文字・記号を字間を空けずに(ベタ組にして)配置する.このことを前提にして本の基本となる版面(基本版面)を設計する.そのうえで実際のページでは,基本版面の設計に従い図版や文字・記号などを配置する.この基本版面の設計と,それに従いどのように図版や文字・記号などを配置するかを理解することは,日本語組版を理解する重要なポイントである.そこで,第1章では,基本版面の設計とその適用方法について,詳細に解説した.特に,“1.5 基本版面の設計要素の各ページに対する適用”では,次の3点について,基本版面で設計した事項のどこを厳守し,どのような例外がでるかについて,典型的な例を解説した.ここでの説明の目的は,日本語組版を理解してもらうためのものであり,各要素の詳細な解説は,第2章と第3章で行うので,説明が一部では重なる部分もでてくる.
基本版面で決定した版面の全体のサイズ又は段組などその構造をできるだけ維持する.ただし,例外がある.
基本版面で決定した行の位置をできるだけ維持する.ただし,例外がある.
基本版面で決定した文字位置をできるだけ維持する.ただし,例外がある.
日本語文書の組体裁を設計する場合,基本となる組体裁を設計し,それを基準に文書の実際のページの設計を行う.
基本となる組体裁は,書籍では,1パターンであることが多いが,雑誌では一般に数パターンを作成する.
書籍では,1パターンといっても,前述したように目次などは,基本となる組体裁を元に設計をしなおす.また,索引は,基本となる組体裁とは異なる組方になる例が多く,縦組の書籍でも,索引は横組とし,段組とする例が多い.この場合でも,基本となる組体裁で設計した版面サイズと索引の版面サイズが近似するように設計する.
雑誌は,性格の異なる記事の集合である.そこで記事内容により,ある部分は9ポイントの3段組,ある部分は8ポイントの4段組と,記事内容により組方を変えている例が多い.
基本となる組体裁の主な設計要素としては,次がある(縦組の例を図1-1に示す).
仕上りサイズと綴じる側(図1-2参照,日本語文書では一般に右綴じ又は左綴じ)
基本となる組方向(縦組又は横組)
基本版面の体裁及びその仕上りサイズに対する位置
柱とノンブルの体裁
本の基本として設計される版面体裁が基本版面である.基本版面の設計要素としては,次がある(図1-3参照).
注1) |
基本版面で設計した各要素が,実際のページでどのように適用されるかは日本語組版の特徴を理解するための重要なポイントである.そこで,その詳細は後述する. |
注2) |
基本版面の指定等については,JIS X 4051の7.5に規定されている. |
注3) |
仕上り用紙サイズ別の基本版面の設計例(柱及びノンブルの設計例も含く)及び組版例が,JIS X 4051の附属書3及び附属書4に掲げられているので参考になる. |
使用する文字サイズ及びフォント名
組方向(縦組又は横組)
段組の場合は,段数及び段間
1行の字詰
1ページに配置する行数(段組の場合は1段に配置する行数)
行間(又は行送り)
基本となる組体裁を設計し,それを基準に文書の実際のページにおける各要素の配置設計を行う例をいくつか示しておく(なお,この点を含め,基本版面の設計要素が各ページでどのように適用されるかについては“1.5 基本版面の設計要素の各ページに対する適用”で解説する).
見出しを配置するスペースと位置
見出しの行送り方向のスペースは,基本版面で設定した行の位置を元に,それの何行分を用いるかという方法で設計する(この処理方法については,JIS X 4051の8.3.3のd)に規定されている).見出しの字詰め方向の字下げは,基本版面で設定した文字位置を基準に,その何字分を下げるかという方法で一般に設計する.図追1-1の例は,見出しを基本版面で設定した行の位置の3行の中央に配置し,基本版面で設定した文字サイズの4字下がった位置に配置している.
注1) |
見出しの種類や構成,その配置方法等についての詳細は,“3.1 見出し処理”で解説する. |
配置する図版のサイズ
横組の2段組に図版を配置する場合,図版の左右サイズは,できるだけ基本版面で設計した1段の左右サイズ又は基本版面の左右サイズを基準に設計し,そのいずれかのサイズで配置できるときは,そのように決める(図追1-2参照).また,位置は,多くは版面の天又は地などに揃えて配置する(図追1-2参照).
注1) |
図版の配置方法についての詳細は,“3.3 図・写真等の配置処理”で解説する. |
目次の版面サイズ
書籍の目次の版面サイズは,基本版面のサイズを基準に設計する.例えば,縦組の目次では,左右の行送り方向のサイズは基本版面のサイズと同じにし,天地の字詰め方向のサイズは,やや小さくする例が多い(図追1-3参照).
注1) |
基本版面と異なる版面にした場合の柱及びノンブルに位置については,“1.6.2 柱及びノンブルの配置の原則”で解説する(図追1-17参照). |
日本語組版に使用する和文文字では,主に漢字と仮名(平仮名及び片仮名)を使用する(図1-4参照).
注1) |
日本語組版には,漢字と仮名以外に,多くの約物類(図1-5参照)のほかに,アラビア数字,ラテン文字,ギリシャ文字などを混用する場合がある. 図1-5 日本語組版に使用する約物類の例
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注2) |
このドキュメントにでてくる文字及び文字クラスの詳細は,“2.9 文字クラスについて”,及び別ドキュメントの“用語集”で解説する.また,Appendix 〓に各文字クラスに含まれる文字・記号とUnicodeとの対応を示す. |
漢字と仮名は,正方形の仮想ボディ(又は文字の外枠ともいう)をもっており,その仮想ボディの天地左右中央に,仮想ボディよりやや小さくした字面をもっている.文字サイズは,この仮想ボディのサイズで示す(図1-6参照).なお,字幅は,文字を配列する方向(字詰め方向)の仮想ボディの大きさをいい,横組では文字の幅となるが,縦組では文字の高さとなる.(図1-6参照)
注1) |
小書きの仮名(っ,ょ,ュ,ァ,ィ,ゥなど)は,縦組では仮想ボディの天地中央で右寄り,横組では仮想ボディの左右中央で下寄りに字面を配置する(図1-7参照).また,約物などでは,仮想ボディの天地左右中央に配置しない例がある. 図1-7 小書きの仮名と仮想ボディの関係
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漢字及び仮名は,行に文字を配置していく際には,原則として,仮想ボディを密着させて配置するベタ組にする(図1-8参照).
注1) |
活字組版の時代から漢字と仮名の設計は,縦組又は横組にした場合でも読みやすく,また,ベタ組とした場合に読みやすいように設計されていた.ただし,活字組版では,何段階かに分けて原図(母型の元になるもの)を作成していたが,今日では,同一の原図から単純に拡大・縮小して使用するので,大きな文字サイズにした際には,字間の調整が必要になる場合もでてきた. |
||||
注2) |
次のようにベタ組にしない方法も,印刷物の内容によっては採用されている.
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日本語の組版における組方向は,縦組(縦書き)と横組(横書き)がある.原稿の内容に応じて,いずれかの組方向を選択する.
注1) |
日本語組版に使用する漢字と仮名は,原則として正方形の文字なので,活字組版の時代から,縦組・横組共用の印刷用文字の配置方向を変えるだけで,縦組と横組の組版が可能であった(図1-13参照).なお,横組専用の活字の設計も一部で行われた例があるが,あまり普及しなかった. 図1-13 縦組と横組(矢印は文字を読んでいく順序を示す)
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注2) |
縦組と横組の組版されたページ数を調査したデータはほとんどないが,日本における縦組と横組の本の刊行点数は,ほぼ同じくらいと予想される. |
注3) |
公用文は横組が推奨され,教科書等では特別な科目を除き,多くが横組であり,また,携帯小説の読者も増えており,今後は横組が増えていくと予想される.しかし,大部数の新聞のすべては縦組であり,一般の読者を対象とする発行部数の多い雑誌もほとんど縦組である.また,書籍でも読者の多い小説などでは,ほとんどが縦組である(小説は縦組でないと読めないという読者もいる).したがって,日本語組版において,縦組が重要であるということは,当分は変わらないと予想される. |
注4) |
1つの印刷物の中では,縦組と横組のどちらか一方の組方向で組版するが,縦組の場合は,横組にして柱を配置するなどして,部分的に横組が混用される場合も多い(図1-14参照). 例 ページ内に配置する表及びキャプション,図版のキャプション,柱,ノンブルなど. 図1-14 縦組の本における横組の混用例
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縦組と横組の主な相違点としては,次がある.
文字,行,段及びページの配置,並びに綴じの方向は,次のようになる.
注1) |
縦組と横組における文字,行,及び段の配置方向は,JIS X 4051の7.4.4に規定されている. |
縦組の場合(2段組の例である図1-15参照)
文字は上から下に,行は右から左に配置する.
段は上から下に,ページは表面から開始,右から左に配置する(左方向から右方向に本は開いていく,図1-16参照).
横組の場合(2段組の例である図1-17参照)
文字は左から右に,行は上から下に配置する.
段は左から右に,ページは表面から開始,左から右に配置する(右方向から左方向に本は開いていく,図1-18参照).
文中に挿入される英数字の向きは,次のようになる.
縦組の場合は,次の3つの配置方法がある.
和文文字と同じように正常な向きで,1字1字配置する.主に1文字の英数字,大文字の頭字語(図1-19参照)など.
注1) |
和文文字と同じように正常な向きで,1字1字配置する場合に使用する英数字は,活版組版時代から固有の字幅を持つ欧文組版用の文字(プロポーショナルな文字)ではなく,全角でデザインされたモノスペースの欧字や数字を用いていた. |
文字を時計回りに90度回転し,配置する.主に英字の単語,文など(図1-20参照).
注1) |
図1-20において“editor”の仮想ボディの前後に隙間がある.この隙間は,和文と欧文を混ぜて配置する場合の必要な処理であり,詳細は後述する. |
正常な向きのまま,横組にする(縦中横,図1-21参照).主に2桁の数字の場合などで利用されている(縦中横の処理は,JIS X 4051の4.8に規定されている).
横組の場合は,正常な向きで配置する.
表,図版などを,サイズの関係から時計回り又は反時計回りに90度回転して配置する場合,次のようにする(この処理は,JIS X 4051の7.3に規定されている).
縦組の場合は,表,図版などの上側を右側にする(図1-22参照).
横組の場合は,表,図版などの上側を左側にする(図1-23参照).
注1) |
これは,本を読んでいく流れに従うためである. |
改丁・改ページなどの直前ページにおいて,段組の行がページの途中で終わる場合は,次のようにする(改丁・改ページの処理は,JIS X 4051の8.1.1に規定されている).
縦組の場合は,“なりゆき”とし,各段の左右行数は不揃いになる(図1-24参照).
横組の場合は,各段の行数を平均にする.ただし,行数が段数で割り切れない場合,その不足する行数は,最終段の末尾を空けるようにする(図1-25参照).
注1) |
縦組の場合,左右又は上下のバランスは,それほど問題とならない.これに対し,横組では,左右のバランスをできるだけ考慮した方が配置位置として安定するからである. |
日本語組版では,正方形の仮想ボディをベタ組にすることから,まず基本版面のサイズを設計し,そのうえで,仕上りサイズに対する基本版面の位置を決めている.そこで,基本版面は,次の手順で設定する(図1-26参照).
基本版面のサイズを決める.
1段組の場合は,文字サイズ,1行の字数,1ページの行数及び行間を決める.
多段組の場合は,文字サイズ,1行の字数,1段の行数,行間,段数及び段間を決める.
仕上りサイズに対する基本版面の配置位置を決める.
基本版面の配置位置の指定方法には,次がある.
注1) |
一般には,基本版面を仕上りサイズの天地左右中央に配置する例が多い.つまり,デフォルトは仕上りサイズの天地左右中央であり,基本版面のサイズによっては,天地中央よりやや上げる・下げる,または左右に移動させるなどの操作を行う. |
注2) |
仕上りサイズと四方のマージンを設定することにより基本版面のサイズを決める方法は,和文の組版では,一般に行わない.この方法でしか設定できない場合は,あらかじめ基本版面のサイズと刷り位置から四方のマージンを計算し,設定することになる. |
基本版面は,次のような事項を考慮し設計する(この項のa項及びb項は処理内容というよりは,どのように設計するかという問題についての解説である.なお,基本版面の指定については,JIS X 4051の7.4.1に規定がある).
仕上りサイズ及び余白を考慮して決定する.一般には,仕上りサイズと基本版面のサイズがほぼ相似形になるように決める.
大人を読者対象とした本の場合の文字サイズは,一般に9ポイント(≒3.2mm)が多い.辞書など特別の本を除き,最低でも8ポイント(≒2.8mm)である.
注1) |
欧文の場合,10ポイント(≒3.5mm)又は12ポイント(≒4.2mm)がよく使用されている.これは和文文字と欧文文字との文字設計の違いによる. |
1行の行長は,文字サイズの整数倍に設定する(図1-27参照).
注1) |
これは,2つの理由による.この2つを満足させるために,行長は,文字サイズの整数倍に設定する必要がある.
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注2) |
1行の行長(字詰め数,1行に配置する字数)は,縦組の場合,最大で52字くらい,横組では40字くらいにする.仕上りサイズの関係で,1行の字詰め数がこれ以上になる場合は,段組にして,1行の字詰め数を少なくすることが望ましい. |
行と行の間の空き(行間)は,特別な場合を除き,一定の値を確保する.また,各行の行の位置は,できるだけ揃えるようにする.そこで,一般に基本版面の行送り方向のサイズは,行数と行間(又は行送り)で設定する.
注1) |
日本語組版では,行間にルビ・圏点・傍線・下線などを配置する例がある.このようなものを配置した場合でも,行間は一定にし,変更しない(図追1-5参照).本文中に注と参照するための合印を行間に配置する方法があるが,この場合も同様に扱う.なお,ルビなどの配置法そのものについては,第2章で解説する. 図追1-5 行間にルビなどを配置した例
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注2) |
割注は,基本版面で設定した行送り方向の行の幅(基本版面で設定した文字サイズ)よりはみ出して配置する.この場合でも,割注の入らない部分の行間を一定にし,割注のある箇所は狭くなるようにする(図追1-18参照).したがって,割注が入る場合は,行間をある程度大きくしておく必要がある.この他に,縦中横,上付き・下付きの添え字などについても,行送り方向の行の幅よりはみ出して配置する場合は,同様に扱う.なお,割注などの配置法そのものについては,第2章で解説する. 図追1-18 割注が入った場合の行間の処理例
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注3) |
基本版面の行間は,基本版面の文字サイズの二分アキ以上で全角アキ以下の範囲とすることが多い.字詰め数が少ない場合は,二分アキでもよい.35字を超えるような字詰め数では,全角アキか,それよりやや詰めた行間にするのがよい. |
注4) |
古典の注釈本などで,行間にルビやその他の要素を数多く配置する場合などを除き,行間を全角アキ以上にすることはない.全角アキ以上にしたからといって,読みやすくなるわけではない. |
注5) |
欧文の組版の行間は,文字サイズの三分アキまたはそれ以下とする場合も多い.これと比較すると和文の組版の行間は大きくなる.これも,和文文字と欧文文字との文字設計の違いによる. |
それぞれのページに配置する各要素は,できるだけ基本版面で設定した版面サイズの内側になるように配置する.しかし,次のような例外がある.
版面又は段の先頭に配置する行の右側(縦組)又は上側(横組)にルビや傍線,圏点などが付く場合は,版面又は段の領域の外側に接して配置する(図追1-6参照).ルビや下線などを左側(縦組)又は下側(横組)に付けた場合は,版面又は段の末尾に配置する行で版面又は段の領域の外側に接して配置する.次項を含め,このことは基本版面で設定した行の位置を確保するためである.本文中に注と参照するための合印を行間に配置する方法があるが,この場合も同様に扱う.
版面又は段の先頭又は末尾に配置する行に基本版面で設定した行送り方向の行の幅(基本版面で設定した文字サイズ)よりはみ出して配置する要素がある場合は,基本版面で設定した行送り方向の行の幅よりはみ出して配置する部分を,版面又は段の領域の外側にはみ出して配置する(前項とこの項の処理は,JIS X 4051の12.1.1に規定されている).例えば,縦中横の設定を行った文字列の横幅が基本版面で設定した文字サイズより大きくなる場合などである.この他に,割注,上付き・下付きの添え字なども同様な扱いとする.
ぶら下げ組とよばれる処理をした場合は,行頭禁則の処理を必要とする句点(。)と読点(、)に限り,行末の版面又は段の領域の外側に接して配置する(図追1-7参照).なお,ぶら下げ組についてはJIS X 4051に規定されていないが,同規格の解説8.1)c)に説明がある.
注1) |
ぶら下げ組は,字間による行の調整処理を少なくする方法である. |
注2) |
ぶら下げ組を採用している書籍は多い. |
図版や表を各ページに配置する場合,一般に基本版面で設定した範囲内に配置する.しかし,配置する図版や表によっては,基本版面で設定した範囲をはみ出して配置する場合もある.
配置する図版や表のサイズが基本版面より大きくせざるを得ない場合
視覚的効果を出すために基本版面で設定した範囲をはみ出して配置する.特に紙面一杯に配置する“裁ち落し”とよばれる方法は,書籍では多くないが,雑誌などではよく行われている(図追1-8参照).
その他,図版のキャプションを段の領域の外側,段間に配置する方法も雑誌などでは行われている(この配置方法は体裁がよくないという意見もある).
各ページにおける行の位置は,基本版面で設定した行の位置に従うのが原則である.前掲した図(図追1-5)のようにルビや圏点が付いた場合だけでなく,例えば,次の図追1-9に示したように,行中の一部として基本版面で設定した文字サイズより小さな文字が入る場合でも,基本版面で設定した行の位置を基準に配置し,それに後続する行も基本版面で設定した行の位置にくるようにする.
注1) |
括弧書きの文字を小さくするのは,その部分は補足的な説明ということからである.ただし,その扱い方としては,次の3つの方式がある.限定した箇所のみの文字を小さくする方法が最もよく利用されている.
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ただし,次のような例外がある.
横組などで,図版や表の左右にテキストを配置しない方法とした場合,1ページに2つ以上の図版や表が挿入されたときは,基本版面で設定した行の位置からずれることがある(図追1-10参照).ただし,基本版面で設定した行の位置に配置する方法もある(図追1-11参照).前者の方法は,図版や表の前後の空きをできるだけ均一にするという考え方による(この方法を採用している書籍が多い).この処理方法については,JIS X 4051の10.3.2のd)に規定がある.
段落間や横組でページの下端に挿入される脚注などは,基本版面で設定した文字サイズよりは小さくする.これに伴い行間も狭くするので,基本版面で設定した行の位置とは揃わない.例えば,縦組において,段落の間に入る後注の配置位置の例を図追1-12に示す.後注の組版処理については,JIS X 4051の9.3,脚注は9.4に規定されている.
見出しは,前述したように必ずしも基本版面で設定した行の位置とは揃わないことがある.しかし,その行送り方向にしめる領域は,基本版面で設定した行を基準に設計する(図追1-1参照).
各行に配置する文字の位置は,基本版面で設定したベタ組とした文字の配置位置に従うのが原則である.しかし,前掲したいくつかの図でも基本版面で設定した文字の位置に従っていない例がある.こうした事例は多いが,以下では,典型的な例をいくつか示す(詳細は第2章で解説する).
注1) |
基本版面で設定した文字サイズのベタ組にしない箇所がある場合,行長が揃わない場合が発生する.段落の最終行を除き,行長を揃える処理が必要になる.この処理方法については,“2.8 行の調整処理”で解説する. |
行中の一部として基本版面で設定した9ポより小さい文字が挿入される図追1-9の場合である.この場合は,基本版面で設定した9ポの部分は9ポの仮想ボディに従いベタ組にするとともに,小さくした8ポの部分は,小さくした8ポの仮想ボディに従いベタ組にする.
行中にプロポーショナルの欧字を図1-20のように,文字を時計回りに90度回転して配置する場合は,プロポーショナルの欧字は,その字幅に応じて配置するので,基本版面で設定した文字位置とは揃わなくなる(図追1-13参照).英字の後ろに連続する和文の配置位置もずれてくる.
改行した行の先頭(改行行頭)や段落の2行目以下の行頭(折り返し行頭)に配置する括弧類の配置方法には,いくつかある(詳細は“2.1.5 行頭の括弧類の配置方法”で解説する).改行行頭の字下げは全角とする場合,又は折り返し行頭は行頭にアキをとらない配置法である天ツキとする場合は,図追1-14のように2字目以下の文字は,基本版面で設定した文字位置とは揃わなくなる.しかし,行長を揃える調整処理を行っているので,行末の文字は,基本版面で設定した文字位置に揃っている.
第2章で解説するように句読点や括弧類の字幅は,半角であるが,これらの約物が漢字又は仮名と連続する場合は,原則として,それぞれの約物の前及び/又は後ろに二分アキをとることで,結果として全角というサイズにする.しかし,句読点や括弧類が連続する場合は,二分アキをとらない箇所があり,このケースでは基本版面で設定した文字位置に揃わないことになる(図追1-15参照).これは,見た目の体裁をよくするためである.
第2章で解説するように終わり括弧類や句読点を行頭に配置してはならないという規則(行頭禁則という)がある.これらが行頭にくる場合は,なんらかの調整が必要になる.その調整処理のために基本版面で設定した文字位置に揃わない場合がでてくる.
柱及びノンブルの縦組における代表的な配置位置例を図1-28に示す.
柱及びノンブルの横組における代表的な配置位置例を図1-29に示す.
柱及びノンブルの位置は,仕上りサイズに対する絶対的な位置関係ではなく,基本版面との相対的な位置関係で一般に設定する(柱の配置については,JIS X 4051の7.6.4に,ノンブルの配置については,JIS X 4051の7.5.4に規定がある).
例) |
天・小口寄りに縦組で柱を配置した場合の例(図1-30参照) 基本版面との上下方向の空きは9ポイント(9ポ) 基本版面との左右方向の空き(入りともいう)は9ポイント(9ポ) |
柱及びノンブルの基本版面との位置関係では,次のような点に注意する.
縦組においてノンブル及び柱を横組にして配置する場合は,基本版面との上下方向の最低の空き量は,基本版面の文字サイズの全角アキとする。横組の場合は,同じ組方向となるので,基本版面の文字サイズよりやや大きくする.
縦組及び横組において,ノンブル及び柱を横組にして配置する場合は,左ページでは,基本版面の左端の延長線にノンブル又は柱の先頭をそろえて配置するか,基本版面の左端の延長線から基本版面の文字サイズの全角アキだけ右に寄せた位置に配置する.右ページでは,基本版面の右端の延長線にノンブル又は柱の末尾をそろえて配置するか,基本版面の右端の延長線から基本版面の文字サイズの全角アキだけ左に寄せた位置にノンブル又は柱の末尾をそろえて配置する.
横組にしてノンブル及び柱を同一位置に並べて配置する場合は,ノンブルと柱との空き量を柱に使用する文字サイズの2倍アキ又は1.5倍アキとする.
縦組において,ノンブル及び柱を小口側に縦組にして配置する場合(図1-28の3段目左端の例参照)は,基本版面との左右方向の最低の空き量は,基本版面の行間とする.天から基本版面の文字サイズで4倍くらい下げた位置に柱を配置し,地から基本版面の文字サイズで5倍くらい上げた位置にノンブルを配置する.
注1) |
ノンブルを縦組で掲げる場合は,一般に漢数字を用い,横組で掲げる場合は,一般にアラビア数字を用いる.また,前付の部分を別ノンブルにした場合は,横組で掲げるノンブルは,一般にローマ数字の小文字を用いる. |
柱及びノンブルは,1冊の本の中では,同じ位置に配置する.
注1) |
目次,索引などの文字を配置する領域が,基本版面のサイズより小さくなる場合,仕上りサイズに対する柱及びノンブルの位置は同じである.したがって,目次,索引などの文字を配置する領域が基本版面のサイズより小さくなった分だけ,目次,索引などの文字を配置する領域と柱及びノンブルとの空き量は変化する.次に示す図追1-17は,図追1-3で示した基本版面より小さくした目次の版面と柱及びノンブルの位置関係を示したものであり,図1-31は,基本版面より左右方向で各4ポイント小さくしただけでなく,上下方向でも各5ポイント小さくした索引の版面と柱の位置関係を示したものである. 図追1-17 基本版面より小さくなった目次の版面と柱及びノンブルとの位置関係
図1-31 基本版面より小さくなった索引の版面と柱との位置関係
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ノンブルは,紙葉の表面を“1”として開始するので,縦組の見開きにおいては,右ページは偶数ページ,左ページは奇数ページとなり(図1-32参照),横組の見開きにおいては,左ページは偶数ページ,右ページは奇数ページとなる(図1-33参照).
柱には,偶数ページ及び奇数ページの両方に配置する両柱方式(図1-34参照)と奇数ページのみに配置する片柱方式(図1-35参照)とがある(柱の掲げ方についてはJIS X 4051の7.6.2に,ノンブルの掲げ方については,7.5.2に規定がある).
注1) |
柱は,原則としてページに1つだけ配置するが,辞典などでは,1ページに内容を示す柱を複数配置する場合もある. |
注2) |
ノンブルも原則としてページに1つだけ配置するが,次のようなケースでは複数を配置する場合もある.
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両柱方式では,偶数ページにレベルの高い見出し又は書名を掲げ,奇数ページには,偶数ページに掲げた書名又は見出しより1ランク下の見出しを掲げる.ただし,目次など下位レベルの見出しのない部分では,偶数ページと奇数ページに同じ柱を掲げる.
注1) |
柱に何を掲げるかは,その本の内容による.読者が各ページに何が書かれているかを検索する,または現在説明されている内容を確認することが主な目的である.その点では書名を掲げるのはあまり意味があることではない.3つのランクの見出しがあった場合は,最も大きな見出しと,その次にランクする見出しを掲げるというのが,最も普通な方法であろう. |
片柱方式では,いずれかのレベルの見出しを掲げる.
柱は,原則として見出しと同じ内容を掲げるが,次のような例外がある.
縦組の見出しを横組にして掲げる場合,数字表記などを横組の表記法に変更する.
見出しの字数が多い場合,文章を修正し,字数を少なくする.あまり字数の多い柱を掲げるのは体裁がよくないからである.
論文集などでは,著者名を見出しの後ろに括弧類などで括って示す.
柱及びノンブルの組方向は,原則として基本版面の組方向と同じにするが,縦組における柱・ノンブルの組方向は,横組とする場合が多い.
柱は,原則として片柱方式の場合は全ての奇数ページ,両柱方式の場合は全ページに掲げるが,次のようなページでは表示しない.これは体裁の問題からである.
柱を表示しないページ
中扉及び半扉
柱の配置領域が,図版などと重なったページ
白ページ
柱を表示しなくてもよいページ
柱の配置領域に隣接して図版,表などが配置されているページ
改丁・改ページ等で始まる見出しが掲げられているページ
ノンブルは,原則として全ページに掲げるが,次のようなページでは表示しない.これは体裁の問題からである.
ノンブルを表示しないページ
ノンブルの配置領域が,図版などと重なったページ
白ページ
ノンブルを表示しなくてもよいページ
中扉及び半扉
横書きにおいてノンブルを天側の余白に配置した場合で,改丁・改ページ等で見出しが始まるページ(この場合,ノンブルを地の中央に移動して表示する方法もある)
注1) |
ページはあるが,そのページを数えない場合には,次のような例がある.
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ノンブルは,1冊の本を通して数字を連続させる方法(通しノンブルという)と,前付や後付部分を別に1から数字を開始してノンブルを付ける方法がある(別ノンブルという).また,マニュアル等では,章別に1から数字を開始する方法もある(この場合は,1から開始した数字の前に章名を示す接頭辞を付けることが多い).
注1) |
前付と本文を別ノンブルとする場合は,それぞれを1から数字を開始してノンブルを付ける.この場合,前付部分は,本文と区別するためにローマ数字の小文字を使用する例が多い. |
注2) |
縦組の書籍で横組の索引を付けた場合は,次のような方法がある.
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この資料は、Japanese Layout Taskforceの参加者の多大な協力によって作成さ れている。